富嶽 の 物 語

富嶽三十六景というものがある
江戸時代の浮世絵師「葛飾北斎」がかつて富士とその風景を描いた
現代版を描くとどうなるのか
その一つの好奇心が筆を走らせた

『六本木ヒルズ

現代を描くにおいて、よく登場したのはビルである
ビルは現代の構造物で蒔絵での表現は難しい
誰も描いたことがないものだから

その中でも「六本木ヒルズ」を手掛けた時は骨がおれた
ほとんどの窓を一つ一つ敢えて漆を塗らず ”抜き” にしたのである
こうすることによって遠くから見るヒルズの立体感を表した

『凱風快晴』

この作品は富士の峰をウズラの卵を使って一つ一つ貼り荒々しさを表した
漆は元々の色が茶色に近いため
白い顔料を入れても完全な白を作ることができない

 

ゆえに昔からこの卵殻という技術を使用してきた
漆の仕事は本当に自然と一緒に発展してきたのである

『夜光富士』

この作品は峰部分に夜光貝という貝を使った
この貝は驚くことに自然の色で着色を一切加えていない
角度によって色彩が変わる不思議な材料である

 

富士の力強さ、雄大さを表現するため
貝の中でも大小を選別し、バランスを見て配置した